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理事長 日野 荘一郎
● 第一報
2001年、当地にサンウィンズビルを新築し、医師やコメディカル、事務職員がチーム医療に徹して患者さんの診療にあたることになぞらえてデルタクリニックと命名し、肝臓、胆道、膵臓(肝・胆・膵)疾患を専門としつつ地域住民の方々の感冒、高血圧などの日常病(common disease)の診療にも携わる目的で診療所を開設致しました。
本年創立20周年を迎えることができましたのは、当クリニックを受診してくださった多くの患者さん、近隣にお住まいの方々、変わらぬご支援を賜った同僚や諸先輩、埼玉肝臓友の会の皆様、加えて入院治療を要する患者さんを快く引き受けてくださった多くの病院の医療従事者の方々、行政および市民医療センターの先生方、産業医の先生方ならびに地域包括ケアシステムの運営に関わっている方々のお陰と存じます。この場を借り、改めて心より深謝申し上げます。
本来ならこれを機会にお世話になった方々をお招きしてささやかながらも宴を設け、直接お目にかかって御礼を申し上げなければならないところ、新型コロナウイルス感染拡大の危急存亡の秋(とき)、私の挨拶(当クリニック20年間の軌跡のご紹介)をもってこれに替えさせていただきたいと存じます。
私は開院当初から事務長として経営に携わってきましたが、2016年からは理事長に就任し、当クリニックの全ての責任を担う立場となりました。不耕不織の身でありながら、誠におこがましいと存じますが、イギリスには「Experience without learning is better than learning without experience(学問なき経験は経験なき学問にまさる)」との諺もございます故、読下していただければありがたく存じます。
振り返れば20年前から今日まで当クリニックの志は高く、受診していただく患者さんに最良の医療を提供するため優秀な人材を募りインセンティブの維持に努め、同時に最新の医療機器を整備し必要に応じてイノベーションを断行し、医療の質の向上に努めて参りました。
中でも特記すべきことは開院時、クリニックとしては異例の遺伝子検査室と-80℃の冷凍庫室を設置したことです。
当初は採算を度外視した無謀とも思える船出と揶揄されましたが、患者さんに最良の医療を提供するため寝食を忘れて病原体(主としてウイルス)やヒトの遺伝子解析に没頭した星野をはじめ全職員が、それぞれの責務を全うしてくれた結果、当クリニックの肝臓病、とりわけB型肝炎やC型肝炎の治療成績が他の医療機関に比較して少なからず良好であった原動力となったと自負しています。
デルタクリニックの遺伝子検査室と-80℃の冷凍庫室
さて、昨年、中国武漢で感染爆発した新型コロナウイルス(SARS−CoV2)感染によるCOVID−19(Coronavirus Disease 2019)はその後も世界中で流行(パンデミック)し、わが国も例外ではなく感染拡大はとどまることを知らず、未曾有の感染者と重症化の増加に人々の不安は募る一方です。
当クリニックでは直接SARS−CoV2の基礎的研究に携わってはいませんが、上記のごとくヒトや肝臓病の病原体の遺伝子解析を礎に臨床で培った知識を応用し、2009年、新型インフルエンザウイルス(H1N1)感染が勃発した際、新たに当クリニックの一部を改造し「発熱外来」を設置して対応した経験を生かし、2020年2月から更なるゾーニングを強化した上で「発熱外来」を再開し、COVID−19の患者さんにも対応して参りました。
「発熱外来」では、一般外来の患者さんの診察室とは接点をもたせず、COVID−19が疑われる患者さんやインフルエンザ疑いの患者さん等、感染症の患者さんの診察や検査、治療を続けています。
もとより本挨拶状は、当クリニックの20年間の歩みを記述させていただくことによって、改めて肝・胆・膵疾患の知識を深めていただくとともに、未だ難治性であるこれらの疾患の問題点を自らえぐり出し、明日からの糧にすることができれば些かなりともお世話になった方々への恩返しになるとの思いから起稿致しました。
しかし、上記のごとくSARS−CoV2感染の拡大は深刻で、わが国のみならず世界の存亡をも揺るがしかねない緊急事態に堕ち入っています。
そこで急遽一旦筆を折り、まずCOVID−19の概要に触れ、紙面の関係からも「ウイルス性肝炎」に絞って歴史を振り返りつつ、当クリニックが果たした役割を垣間見ていただき、締めくくりは当クリニックが目指す今後の展望について簡単に触れさせていただくことに致しました。
本稿をお読みいただく皆様方にとってウイルス感染症の局面からみると感染経路の違いこそあれ、ウイルス性肝炎と共通点の多いCOVID−19の知識の向上にもお役立ていただき、不安解消の一助にしていただければ誠に幸甚に存じます。
2020年1月、中国武漢に滞在中のヒトが一時帰国した際、COVID−19を発症しており、わが国で1例目のSARS−CoV2の感染者となって以来、わが国でも日増しに感染拡大し、連日報道番組やファストアラートなどを通して、「新型コロナウイルス、ダイアモンドプリンセス号、PCR、抗原・抗体、肺炎、専門家会議、飛沫・エアゾル感染、接触感染(濃厚接触者)、手洗い、咳エチケット、マスク、フェイスシールド、消毒・換気、3密(密閉・密集・密接)、ソーシャル/フィジカルディスタンス、クラスター(集団感染)、オーバーシュート/アウトブレイク(感染爆発/院内感染)、パンデミック、過去最多、緊急事態宣言、時短要請、ロックダウン(都市封鎖)、特措法、テレワーク、テールリスク、GoToキャンペーン、ゾーニング、個人防護服(PPE)、瀬戸際、人工呼吸器・エクモ、アビガン/レムデシビル/フサン・フォイパン/ステロイド/アクテムラ、医療崩壊、トリアージ、ワクチン、変異株、実効再生産数」などの用語が四六時中飛び交うようになりました。
これらの用語を耳にする善良な日本国民は、政府や専門委員会からの感染拡大防止策の呼びかけを真摯に受け止め、可能な限りの自粛を試みてきましたが、感染は収まるどころか歯止めがかからない状況にあり、2021年1月の時点では世界の感染者数は1億人を突破し、死亡者数も219万人を越え、わが国でも感染者は累計39万人に達し、死亡した人も5752人に上っています。
わが国におけるSARS−CoV2の感染者数やCOVID−19患者の重症化例の増加の背景には様々な要因が重なっていますが、感染拡大防止の面から捉えると中国武漢でのエピデミックの状況(2019年12月に発生したといわれる感染者数が翌年の1月23日には武漢市をロックダウンせざるを得ない程感染爆発しました。
わが国では2019年12月から2020年1月6日まで家族が住む中国武漢市に旅行した男性がSARS−CoV2に感染していたことが判明し、本邦第1例目の感染者となりました。
詳細は不明ですが、この男性の肉親に発熱がみられたにも関わらず厚生労働省はヒトからヒトへの感染の証拠はないと公表しました)、ダイヤモンドプリンセス号での限られた空間での集団感染の実態(とくに密閉空間での封じ込めの失敗)、同じコロナウイルス感染症であったSARSの院内感染の実態(文献的考察)などを教訓とすれば、このウイルス感染症が1918年の新型インフルエンザ(スペインかぜ)ウイルスのパンデミックに相当する感染症であることは容易に想定できたことは自明の理であり、国や地方自治体は公衆衛生学、感染症学などの専門家と協働して検疫を含め感染拡大防止策に真摯に取り組んでいれば台湾(まもなくこの感染症が出現して二度目の春節を迎え、ヒトの移動を伴うため対応が注目されますが)やニュージーランドの封じ込めに成功した例をみるまでもなく、島国であるわが国においても、今日の惨状を招くことはなかったでありましょう。
当クリニックは所詮ベッドさえない小さな医療機関に過ぎませんが、感染様式がヒト−ヒト間の接触や飛沫感染であることをいち早く察知し、スタッフが一致協力して徹底した予防対策を講じて参りました。
2020年1月末には発熱外来を受診される患者さんと一般患者さんとの接触を避けるため、一部改装してゾーニングを強化し、デルタクリニック全館の消毒・換気を一日も休まず早朝から診療終了後まで綿密に行うとともに、患者さんや付添の方々にもアルコールによる手指消毒やマスク着用はおろか、検温をお願いするなどして参りました。
この一年を振り返ると発熱外来を実施するために、予約患者さんの制限や診療時間の短縮などで患者さんに多大なご迷惑をお掛けしていること。無論、当クリニックの職員は通常勤務に加えて念入りな掃除や消毒のために時間外、休日返上で働いてくれていること(種々の消毒用機器が開発されていますが、医療施設では患者さんの流れに応じて消毒に強弱を要するため、アナログに優るものはありません)に感謝するとともに、発熱外来で必要不可欠な防護服(Personal Protective Equipment:PPE)などが不足した折には、職員が手作りで作製し準備してくれたことの有り難さも身にしみています。
一方、SARS−CoV2感染が疑われる患者さんのPCR検査の対象に国は現場を無視した法律に則り、保健所を介した制約(37.5℃以上の発熱もしくは感染拡大地域からの帰国者に限る)が設けられていたため、当クリニックでは有症者のみならず無症状の濃厚接触者などで感染が疑われるヒトや濃厚接触したご家族等の心配を払拭できる医療を行うことができず悔しい思いをさせたことから、当クリニックの発熱外来では診療をはじめPCR検査も自前(一部は被験者にもご負担いただきながら)で行わざるを得なかったことなどは理事長として苦渋の日々でした。
当然予定外の出費は経営的な危機も計り知れなかったことを考慮すると、ましてやCOVID−19患者さんの入院等の診療を行っている病院では、感染予防に関する人的・物的助成が充分受けられない中、院内クラスターの発生に怯えながら日々過酷な診療を続けなければならない医療従事者や事務職員および経営に携わる方々の苦境はいかばかりかとお察し申し上げます。
一方、私たちが2020年2月から当クリニックの掲示板などでしばしば警告したとおり、その後も多くの医療機関で院内感染が勃発していることはご存知のとおりです。
裏を返せば、本来の医療機関の責任さえも充分に果たせない状況が続いています。
一方、わが国の衆知を集めたSARS−CoV2のクラスター対策班は院内感染の実態を把握・公表し警告しつつも、マスコミ等の報道機関は夜の街の接待や飲食業での感染拡大を殊更国民にアピールしてきました。わが国の感染者は一旦終息したかのようにみえましたが、2020年4月には再度感染爆発し、同年4月7日から5月25日までの緊急事態宣言が発せられ、政府や地方自治体は再び夜の街や飲食業での時短要請を最優先課題としてきたことは皆様方もご存知のとおりです。
加えて、わが国の全国民は再度3密を避け、不要不急の外出自粛に努め、各職種などでの経済的ダメージは計り知れないものがありました。その結果、感染拡大は終息に向かいましたが、同年11月頃から再び感染者の急拡大がみられ、2021年1月8日には第2回目の緊急事態宣言が出されるに至っています。
2021年2月初旬現在、感染者数は若干減少傾向にあり、全国民は緊急事態宣言を厳守している結果と受け止めているように思えます。
しかし、私たちは、これまでの状況と異なる幾つかの点で不安を隠しきれません。
COVID−19患者の重症例の受入をはじめとする診療体制が苦境に立ち、医療崩壊を招いていることは、本感染症に対して院内感染予防対策を十分に講じなかった当然の帰結と存じます。
しかも、SARS−CoV2の遺伝子変異は刻々と積み重なり、感染力や重症度の増強が懸念され、実際わが国でもイギリス株や南アフリカ株が検出され始めており、発祥地とされる武漢株が短期間のうちに変異し、ヨーロッパ株が世界に拡散したように、変異株の感染爆発によって第1回目ほどの緊急事態宣言下の感染者の減少が見込まれない(または再拡大)可能性があります。
SARS−CoV2の変異株とも関連しますが、現時点でわが国の政府が感染症法を伝家の宝刀として、海外で開発されたワクチン(全く新しい手法で作製された)を十分な効果と安全性を確認せぬまま実施しようとしている点でも些かの不安を隠せません。
誠に僭越ですが、以下に私をはじめ当クリニックの職員とのカンファレンスの現在の考え方を提唱させていただき、さらに本稿をお読みいただく皆様(とくに医療従事者以外の一般住民の方々)には、この感染症について原点に立ち返り熟慮いただいて一人一人が信念をもって対処していただくための一助としていただきたく、第二報ではウイルス性疾患についての簡単な解説をさせていただきたいと存じます。