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2019年、中華人民共和国 湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界中に蔓延し (パンデミック) 、2024年8月に至っても依然として感染は終息せず、波状のごとく流行を繰り返している (図1上段) 。
一般にRNAウイルスは、DNAウイルスに比し遺伝子変異を生じやすいことが知られているが、中でも、RNAを遺伝子に持つ新型コロナウイルスは際だって著しい (図1下段) 。
とくにデルタ株から変異したオミクロン株は、全ゲノム (アミノ酸) に52ヶ所もの変異を有し、スパイク蛋白をコードする領域に限っても33ヶ所もの変異がみられ、その後も新たな変異が生まれている (図2) 。
このことが、効果的なワクチンや治療薬の開発を困難にしている一因となっている。
当初、新型コロナウイルス感染症の主な死因は肺炎であった。その後、呼吸器以外の症状も次から次へ明らかにされたが、いずれも新型コロナウイルス感染に基づく症状であった。
一方、肺炎やサイトカインストームによる多臓器不全などの重篤な症状は新規変異株の出現とともに軽減する傾向がみられ、2023年5月初旬からは感染症2類から5類へと緩和された。
しかし、急性期の臨床症状が長期間持続したり再燃するなど、いわゆる後遺症 (Long COVID : post COVID-19 conditon : 罹患後症状) が感染者の10〜20%程度出現し健常な生活を脅かす原因となっている。
以下に罹患後症状を呈した症例を呈示する(図3)。
感染源 75歳、女性。2022年1月28日、咽頭痛と発熱 (38℃) を主訴に来院した。咳嗽や喀痰はなく、胸部CTで肺炎は除外された。鼻咽頭拭い液で新型コロナウイルスPCRを実施したところ陽性と判定された。
感冒薬と解熱剤の投与により、他の合併症もなく1週間後には軽快した。
感染者 78歳、医師。発熱外来で診療を行っている医師で、上記患者も発症時から診察した。2022年2月2日、咽頭痛と発熱が出現し、同年 2月4日、呼吸苦とともに意識障害が出現し、緊急入院した。
sPO2は93〜94%で胸部CT検査で定型的な新型コロナ肺炎像を呈した。入院後肺炎は軽快したが、精神神経症状は出没し、主たる症状はせん妄であった。
入院時から定期的に脳神経科で検査を受けたが異常所見はなく、罹患後症状と診断された。
その後も精神神経症状は前駆症状もなくフラッシュバックし、2024年4月になりようやく回復した。
同医師の感染源を特定する目的で、同時期に診察した新型コロナウイルス感染患者の遺伝子配列と比較した。
同医師が診療した複数の患者のうち、上記75歳 女性の遺伝子と100%一致したことから感染源は特定できた。
興味あることに同一の新型コロナウイルス遺伝子に感染しても臨床像は著しく異なるなど示唆に富むデータであった。
一般に遺伝子変異にとむRNAウイルスのワクチン製造は極めて困難である。いくつかのパターンに分類できるウイルス (例えばインフルエンザなど) でさえ、有効率は50%に満たない。
幸いインフルエンザは有効な治療薬が開発され、劇的に死亡率を低下に導いた。
しかし、未だワクチンのみならず治療薬のないRNAウイルス感染症はいとまがない。
新型コロナウイルスに関しては、発生して間もなく ( 2021年) スパイク領域のRNAワクチンが開発され、感染細胞に安定して中和抗体を作製させることに成功した。
極めて画期的と称賛されたが、予想を上回る勢いで、新型コロナウイルス遺伝子変異が生じ、ワクチン効果は減弱した。治療薬に関しても同様である。
今後、万能なワクチンや治療薬が登場することを期待してやまない。
そこで、今我々がなすべきことは、わが国で100年以上前から培われた手洗い、マスクなどの伝統を忘れないことである。